AI開発投資大国・イギリスにみる「医療AI活用の最前線」

「AIの開発投資が大きい国」と聞いてどこを思い浮かべるでしょうか。シリコンバレーのあるアメリカ、深圳を中心にAIベンチャーの勢いの止まらない中国、テクノロジー大国インド、はたまたシンガポールやマレーシアなどのASEAN諸国を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
しかし実際は、一位アメリカ、二位の中国に次いで、意外にも第三位は「イギリス」だということをご存知でしょうか。

The Telegraphによると、2019年上半期のイギリスのAI市場への投資額は約1億ドル (約100億円相当) となり、世界第三位の規模になったとのこと。この金額だけでも2018年度全体の金額を上回り、2014年と比較すると6倍にも増えています。
さらにAI企業数の観点ではイギリスはアメリカに次ぐ企業数を誇ります。注目すべきはそのAI企業の大多数が従業員数50人かそれ以下のスタートアップ企業であるということです。
イギリス・ロンドンのビジネスマネジメントコンサルティング会社であるTech Nation社のHarry Davis氏によると「今後 イギリスがこのAI市場の優位を保っていくためには、現実に即した問題解決をする国内AI企業の成長と展開、国際的な競争力を育てていく必要がある」と述べています。

その言葉の通り、AIビジネス大国としてイギリスは国民の生活に密着した問題の解決に役立つサービスを次々に発表しています。なかでも近年、イギリスにとって重要な課題となっているのは「医療」です。
イギリスは日本の国民保険にあたるNational Health Service (以下、NHS)があり、国民は歯科診療やその他の高度治療を除く診察や薬の処方が無償で受けられるシステムがあります。しかし、この社会保障制度は近年深刻な財政難に陥っており、ワーキングビザで就労する外国人にNHS費用の支払い金額を求める、さらに2018年には値上げするなどの対応がされています。(イギリス政府の発表に関する詳細はこちらから)

財政面の負担増によって慢性的な医療機関 (General Practice, 以下GP)・医師・看護師の不足、そして賃金問題が発生するばかりではなく、患者側にもGPの予約が取れないために満足な診療機会が得られないという深刻な問題が起きています。2019年、Cancer Research UK発表により100,000人以上が早期ガンの診療機会を失っていることが明らかになりました。

このような問題のひとつの解決策として、AIによる機械学習を活用は注目されています。具体的には、スマートフォンのアプリケーション上で初期段階の簡易診断、健康上のアドバイスをするサービス「NHS111」がリリースされています。また、2019年にはスマートスピーカーのAmazon Alexaに問いかけることで医療アドバイスが得られるサービスを発表しています。AIによる過去の診療データベースに基づいた分析により、患者の初期症状緩和、ひいてはGPへの負荷軽減を目指した取り組みです。
しかしながら、その実態は一部の対応地域が適応外であったり、学習データベース強化中のため完全なアドバイスを期待できるものではないという状況なのです。実際、イギリス北部ヨークシャー地方からNHSアプリケーションを起動してみると、以下のようにサービスが対応外であることが分かります。このような現状を受けてイギリス人の中には「AIに頼る医療サービスはまだ現実的ではないのではないか」という意見も挙がっています。

(引用:NHS Online, 2019年9月現在)

とはいえ、AIのサービス化は一朝一夕に完成するものではありません。AIは多くの人に使われてデータを更新、学習を繰り返すことでその精度が向上します。最初からAIサービスに完全な対応を求めるのではなく、利用されるなかで試行錯誤を繰り返し強化学習をしていくことに大きな意味があるのです。その点でも国民保険サービスという国家レベルの施策でこのように積極的なテクノロジー活用が進められている様子を見るとさすがAI先進国、イギリスと感じずにはいられません。
イギリスAI企業はまさにこれから医療AIサービスの「実用化から高精度化へ」という課題を乗り越えるべく、邁進していく必要があるのです。

サービス化の前段階では「研究」というフェーズを欠かすことはできません。イギリスではAI研究も積極的に行われています。2019年9月ロンドン大学(University College London 、以下UCL)のチームによる研究結果を話題を集めています。
UCLの研究チームはAIの画像解析によってMRIスキャンによる心臓病の発見を、医師と同程度の正確性で行えることを発表しました。イギリス国内では毎年およそ15万件のMRIスキャンが行われています。AIによる診察が実用化されれば、各医療機関で1年で約54日分にもあたる医師の負荷軽減を実現できる見込みとのこと。医師の負荷が軽減されれば、より多くの患者の診療機会が増えるメリットがあります。
この研究も今後改良と実用化にむけたさらなる考察が必要とされていますが、イギリスの医療問題の解決に大きく期待できる発見であることに間違いはないでしょう。

イギリス特有の社会問題の解決という観点では、ホームレスの保護、医療対応にもAIが使われています。現在、イギリス国内には32万人以上のホームレスがおり、その社会保障提供にもAIが活用されています。StreetLinkというプラットフォームはチャリティの一貫として2012年から導入されたもので、医療対応が必要と思われるホームレスの情報を登録しアラートをあげることができるシステムです。
ホームレスを見かけた場所、性別、服の特徴、状況などを登録できるものですが、悪天候の場合などはその通報が多数寄せられ、対応の意思決定、優先順位づけの問題で7件の報告のうち1件ほどしかホームレスの発見につながらないという課題がありました。
このような状況を受けて、Alan Turing Instituteの研究チームは、過去の救出例、意思決定のデータから自動で優先順位づけを行う仕組みを導入することに成功しました。今後もより迅速な対応のためにStreetLinkが活用される見込みです。(詳細はこちらから)

「AIの開発投資が大きい国」、イギリスで目立つのはこのような国民の生活の質向上、健康問題と隣り合わせの深刻な課題解決にむけたAI活用です。
もちろんマーケティングや採用、退職抑止などビジネスシーンでのAI貢献も数多く実用例が増えていますが、イギリス国民の関心と期待を集めるのはご紹介したような「医療」分野での活用事例です。

このような先進的な取り組みは、日本においても大いに参考になるでしょう。「AIが発達したら人間の仕事が奪われるのでは?」という憶測が飛び交い、ぼんやりとAIに対する脅威を感じている方も多いかもしれません。
しかし、AIによる機械学習技術は私たちの暮らしを豊かに、より便利にするために使われるもので研究者たちはそのための調査や開発を日々続けています。決してAIは私たちを脅かす敵対関係にあるものではないのです。
少子高齢化、社会保障問題など、日本国民の深刻な課題の解決にAIが貢献する日も近いかもしれませ
ん。世界中で続けられているAI研究の発展には今後も大いに期待ができます。



 

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